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ホーム コラム#8:廻由美子

ミュージシャンインタビューや、あるCDをテーマとした座談会など多彩な内容でお送りするBishop コラムのページです。

Bishopコラム 第8回 update: October 2005

廻由美子インタビュー 
(インタビュアー:神田晋一郎)

<廻由美子(めぐりゆみこ)>
 ピアニスト。東京生まれ。現在、桐朋学園大学音楽学部助教授。
桐朋学園大学音楽学部ピアノ科を卒業の後渡米。インディアナ大学音楽学部でジョルジュ・シェベック、スティーヴン・コヴァセヴィッチ各氏に学び、最高位を得て卒業。
 これまでに、バロックから古典派・ロマン派・近現代に至る10数枚に及ぶCDをリリース。ソロリサイタルの他にも室内楽、他ジャンルとのセッションなど活発な演奏活動を行う。ソリストとしては新日本フィルハーモニー、東京都交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、オール・ジャパン・フィルハーモニーなどに招かれ共演。2000年には沼尻竜典指揮、東京都交響楽団と武満徹の「アーク」全曲を日本初演。2005年9月に最新作『廻由美子/ストラヴィンスキー火の鳥』(Crescente, CRSA0001) を発表、「レコード芸術」誌上で特選盤に選ばれるなど、発売直後より高評価を得ている。

* * * * *
ピアノを始めたきっかけは何だったのでしょうか。

□ピアノは4才の時からやっています。6才になってから桐朋音楽教室に通うようになりました。親に無理やりにやらされてやっているのではなく、また何かの動機があって音楽をやっているというのでもなく、自分は常に、そして既に音楽をやっていたのであって、したがって自然に音楽家になった、という感じです。
 私と同じような環境で育った人は他にも多くいることと思いますが、そのような人たちの中でも特に「音楽をつづけていなければ死んでしまう」というほどの人が、結果的に音楽を続けているのではないでしょうか。
 これまでの人生で、自分の道をどちらにしようか、と迷う局面はたびたびありましたが、そのとき関わっていた人々やあらゆる物すべてから影響を受けたと思います。

ピアノの魅力とは何でしょう。

□ピアノの魅力、それはたくさんあるのですが、ひとつ挙げるなら、まずそれは減衰音の魅力でしょう。ピアノは音が立ち上がって減衰していくんですね。持続音が減衰していく楽器の出す音からは、放射されたものがそのまま宇宙に向かって行くような、そんなイメージを覚えます。持続音、放射する音。根源から宇宙へ、というイメージですね。例えば、映画などを見ていても、そこでなる音楽がピアノの音楽になった瞬間から、ものすごい空間性というものを感じることがあります。

現在の音楽シーンについて、どのように感じていらっしゃいますか。

□最近の食文化とよく似ていると思います。例えばフードコーディネートするレストラン、つまり、エスニック風だとかなんとか風、というような感じで若い女の子が入りやすいようなレストランが今たくさんありますね。
 このような、非常にコマーシャルでお客さんを呼びやすい(商売になりやすい)レストランなのだけれども、実際の食事のクオリティは「そこそこ」な感じの店があふれている、という状況があるわけですね。これと音楽の状況はよく似ていると思います。これは見た目とは裏腹に、非常に貧しいことなのだ思います。何よりも第一にクオリティを高めていくことを考えるべきなのですから。
 このような状況にはいろんな要因があって、お客さんがどういうものを求めるのか、プロデュースする側がどんなものを提供するのか、つくる側がどういうものをつくれるのか、そこに商売のことなどが絡むので問題は単純ではありませんが、音楽家側の責任は大きいと思います。腹をくくっていないというか。
 こういった状況は日本だけの問題でもなく、音楽だけの問題でもありません。現在の文化事情全般について指摘できることだと思います。

音楽の演奏に際し、どのような意識で取り組んでいらっしゃいますか。

□音楽をするということのとらえかたをどう考えるのかということですね。私は、やはり「賭け」をするということですね。なにか「賭ける」ものがないといけないと思うのです。
 一回一回の演奏を大切にする演奏家は多いでしょうが、それだけではなく、なにか自分自身に対する賭けであるとか、お客さんに対する賭けをするのです。賭けをしながら進んでいくんですね。賭けをする気があるのかないのか。なんとなく予定調和のなかでわかりきったことをやるのか、それとも賭けをするのか。それには覚悟がないといけないですから、そこで腹をくくれる演奏家というのは少ないのではないかと思います。
 例えば、コンクールに勝つことができたとしますね。でもそのコンクール後に腹をくくった賭けがどれほどできるのか、ということで演奏と評価に差が出てくると思います。

どのような基準でレパートリーを選ばれているのでしょうか。

□自分をモーツァルト弾きであるとかショパン弾きであると宣言して自らの活動を限定してしまう演奏家もいるわけですが…。
 例えばベートーヴェンやモーツァルトはすごい、偉大な作曲家であるというのは世間では常識になっているわけですが、それを果たして本当にそうなのだろうか、常識通りに受け取っていいのだろうかと疑ってみること、ちがう角度から見てみることが大事なのではないでしょうか。歴史上の作曲家それぞれをピラミッド状のヒエラルキーのなかで捉えて限定的に見つめるのではなくて、断面的に、いろんな視点で見ることが大事です。
それはどういうことかと言うと、それぞれが多面的な作曲家であるわけですから、そんな彼らのそれぞれの時空を超えた交信を見ることなのです。だから私は、単体として平面的な作曲家には興味がない。その交信こそが芸術の力だと思うからです。
 交信には時間軸を遡るものさえあるのですね。これを体験することは、自分が実際に宇宙に行かなくても宇宙に行っているようなものです。誰かの作品をやっているとどこかに飛ぶ(交信する)。それでその交信先の音楽に自然に取り組むことになる、そうすることによってレパートリーは広がって行ったわけです。
 ですから、ちょっと変わったレパートリーだと言われますが、そういう選曲になったことも、レパートリーが広がって行ったのもすべて私にとっては自然に起きたことなのです。

では、とくに今回のニューアルバムについてストラヴィンスキーを選ばれた理由はどのような考えがあったのでしょうか。

□私はストラヴィンスキーの作品には一時期中毒になったのですね。ある作品を最後まで聞くと、すぐにもう一回聞くほどの中毒だったのです。ストラヴィンスキーは最初から好きだったわけではないのですが、はじめて聴いた彼の作品「兵士の物語」を中毒のように繰り返し繰り返し聴いているうちに、その魔力に取り付かれていつの間にか好きになっていました。
 なんといってもストラヴィンスキーの曲は色彩が飛び込んでくる感じがするのですね。ヤバい系の光が飛び込んでくる。「私、だまされているのかも」と思うわけですが、それならだまされてやろう、という感じでした、今回は。
 弾き手としては魔力や中毒をなぜなのか、と考えるんですね。そうして考えて、それに取り組んでいるうちに、自分がいつの間にか曲と一体化していてだます側になっている。ストラヴィンスキーを演奏するなら、そうでないとダメだと思います。非常に変な音楽だが、おもしろいですね。
 演奏は決して即物的になってはいけないと思います。いわゆる現代音楽的解釈になってはいけない。そうではなくて、人間の根源に訴えてくるような演奏をしなければならないと思います。だから聴き手はだまされるのですね。
 例えばサーカスもそうなんじゃないでしょうか。根源的な、へんなところに訴えかけてくるでしょう。隠微な怖さがそこにはあります。子供はそういうことに敏感ですね。なんだかわからないけど反応する。見ちゃいけない、とか思うわけでしょう。彼の音楽はそういうものを刺激すると思います。

「火の鳥」については、どうでしょうか。

□ロシアのロマンティシズムを濃厚にのこしたストラヴィンスキーの世界の、その魔法にすっかりかかってしまいました。何といっても、彼の音楽はお話以上にお話なんです。お話以上に語っている音楽ですから、 本当にバレエも消えちゃうくらいの音楽ですね。そこに魅了されました。

レコーディングはどんな感じでしたか。

□レコーディングはそれこそギャンブルでどうなることかという感じでした。でもスリリングな空気は必要ですからね。
 録音もライヴも根本的には同じことだと思います。というのは、どちらも自分自身が第一の聴き手であるということは一緒なわけですから。ですから、自分という聴き手がいる以上、録音時もライヴと変わりません。 
 心がけていたことは、例えば辞書を作るような作業というのは文学とは関係がないのですね。CDを作るという事もひとつの規範や模範解答を作るわけでは全然ない。模範解答いうものがそもそも存在しないのですから。作曲家が自分で演奏した、というものでさえ模範解答などではないのですからね。
 私たち演奏家は、作曲家が書いた譜面があって、それを弾く、ということになっているわけですが、私は、譜面を書く側の体験をしながら音にしていく、という意識で演奏しています。そういう意識で賭けをする、ということです。

今後の展望について、お教えいただけますでしょうか。

□自分の事とはいえ、今後どうなっていくのかまだまだわからないですが、どれだけ変化しながら交信していくのか。宇宙的なもの、他の天体と交信して行くのか、それを止めないで演奏して行きたいですね。

(2005年8月6日  渋谷にて)

《廻由美子 ディスコグラフィー(抜粋)》
『廻由美子 / ストラヴィンスキー 火の鳥』(Crescentes, CRSA0001)
『廻由美子 / シューベルト:さすらい人』(LIVE NOTES, wwcc-7486)
『廻由美子 / バルトーク!』(LIVE NOTES, wwcc-7340)
『廻由美子 / スカルラッティ:22のソナタ集』(LIVE NOTES, wwcc-7364)
『廻由美子 / J.S.バッハ トッカータ集』(LIVE NOTES, wwcc-7296)
『廻由美子 / ハイドン:5つのソナタ』(LIVE NOTES, wwcc-7256)
『廻由美子 / モーツアルト 最後のソナタ』(LIVE NOTES, wwcc-7400)
『廻由美子 / ベートーヴェン:エロイカ・ヴァリエーション』(LIVE NOTES, wwcc-7439)
『廻由美子 / ショパン マズルカ集』(LIVE NOTES, wwcc-7313)
『廻由美子 / コープランド「ロデオ」&ガーシュイン「スワニー」』(LIVE NOTES, wwcc-7221)

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